「バジュランギおじさんと、小さな迷子」感想|こんな優しい映画があったっていいじゃない!この優しさがいつか現実になりますように

「バジュランギおじさんと、小さな迷子」感想|こんな優しい映画があったっていいじゃない!この優しさがいつか現実になりますように

昨今、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い全国的に緊急事態宣言が発令され、外出自粛の要請が出されています。
多くの方が身体的に、精神的に、経済的に疲弊しているのではないでしょうか。
そんな疲れた心を少しでも癒せたらと思い、私が最近鑑賞した映画のうち「優しい!とにかく優しい!」と心がほぐれた映画を紹介したいと思います。
それは、「バジュランギおじさんと、小さな迷子」
2015年にインドで公開され、私が以前レビューを書いた「バーフバリ」に次ぐインド映画歴代興行収入第3位を記録した人気の映画です。
迷子になった女の子をおじさんが家族の元へ帰そうとするロードムービーなのですが、その裏に見え隠れする厳しい世界情勢も描きつつ、人間の優しさへの願いも込めた素敵な映画です。
では、詳しく見ていきましょう。


1.あらすじ
2.感想(ネタバレなし)
・ベースとなるテーマはインド・パキスタンの関係性
・パワンとシャヒーダーの掛け合いが愛らしい
・インド映画らしい色彩豊かなシーンも豊富
3.感想(ネタバレあり)
・現実はそんなに甘くないと分かっていても
・最後のシーンはずっと号泣
4.まとめ


1.あらすじ

・2019年公開(日本) ※2015年公開(インド)
・監督:カビール・カーン
・出演:サルマン・カーン、ハルシャーリー・マルホートラ 他

ハヌマーンを深く信仰するヒンドゥー教徒のインド人パワンは、ある時迷子の女の子に出会う。
女の子は言葉を発することができずどこから来たのか分からなかったが、女の子はパワンに懐いてしまったため放っておくことができなくなってしまった。
警察に行くも取り合ってもらえず、一時的にパワンが居候している婚約者ラスィカーの実家で女の子を預かることとなった。
しかし、やがて女の子の行動から、彼女はパキスタンから来たイスラム教徒ということが判明する。
対立する隣国から来たということでラスィカーの父親は激怒し、女の子をパキスタンに追い返すよう強く促した。

その後、様々な方法を試みるがなかなかうまく行かず、パワンは遂にパスポート・ビザを持たずに自分自身で女の子をパキスタンの家族の元へ送り届けることを決意する。
インドからパキスタンの700kmの2人旅…無事に女の子を家族の元へ送り届けることができるのか。

2.感想(ネタバレなし)

ベースとなるテーマはインド・パキスタンの関係性

この物語の中心となる人物は簡単に言えばこんな2人です。

パワン(バジュランギおじさん):インド人・ヒンドゥー教徒
シャヒーダー(ムンニ):パキスタン人・イスラム教徒

通常であれば緊張が走ってしまうような組み合わせなのです。
インドとパキスタンは元々イギリス領インド帝国として1つの国だったのですが、1947年インドの独立と同時にパキスタンがイスラム教徒の居住地域を中心として独立しました。
しかし、それ以来両国はヒンドゥー教徒もイスラム教徒も暮らしているカシミール地方の領有権を主張して対立関係が続いており、どちらも核も保有しているため緊張状態が続いているのです。
その緊張状態は国民意識にももちろん影響しており、お互いに嫌悪感を抱いている人も多いようです。

そんな複雑な歴史的背景をベースにこの物語は構成されています。
しかし、シャヒーダーが話すことができないため、当初パワンとシャヒーダーは「インド人 対 パキスタン人」「ヒンドゥー教徒 対 イスラム教徒」という関係性は一切ないまま、とてもフラットでクリーンな「人間」同士の交流を始めることができました
そのため、途中でシャヒーダーがパキスタンから来たイスラム教徒だと分かっても、一度築いた関係を放棄することはしませんでした。
しかし、上で述べたように国民全員がそのように考えを変えられる訳ではなく、パワンの婚約者ラスィカーの父はシャヒーダーの事情が分かった途端追い出そうとするというシーンも描かれています。
ラスィカーの父が特別なのではなく、きっとそういう考えを持った方は多く存在する根深い問題なのです。
そんな2つの国の事情を踏まえると、この物語がいかに多くの奇跡の上で成り立っているかというのが分かります。

少し話はずれますが、パワンたちが信仰しているヒンドゥー教とシャヒーダーが信仰しているイスラム教では、食事内容など大きく異なった生活習慣を持っています。
どちらの宗教も信仰していないと知らないことも多いのだと実感しました。そういう点だけでも新しい発見があって勉強になると思います。

パワンとシャヒーダーの掛け合いが愛らしい

そんな重いテーマがありつつも、約3時間の長丁場を最後まで楽しむことができるのは紛れもなくパワンとシャヒーダーの愛らしさにあると思います。

パワンは、要領が悪く学生時代は何年も留年して親に呆れられてしまいましたが、その反面ハヌマーンを深く信仰していて神に対してやましい行動は一切できない正直者かつお人好しな青年。
シャヒーダーは、喋ることができませんが、性格はとても好奇心旺盛で表情豊かなとても可愛らしい女の子。
シャヒーダーを演じたハルシャーリーちゃんに関しては、本当に天使としか言いようがないです!
手を挙げて頷く仕草、クリケットの試合でのパキスタン勝利を喜ぶ仕草、チキンを食べる仕草、パワンを真似した落胆の仕草…何をしても可愛い!

国境を超える旅の途中、パワンが底抜けの正直者であるせいで2人は多くの危機を迎えますが、そのドタバタもまたいい。
もう少し上手く切り抜けられるはずのシーンも、いちいちドタバタ(笑)
ストーリー展開としては王道で予想できるものかもしれませんが、そんな絶妙なバランスの2人の掛け合いはずっと見ていても飽きが来なくて、じっくり見守りたいという優しい気持ちになれるはず。

インド映画らしい色彩豊かなシーンも豊富

インド映画と言えば色彩豊かなミュージカルシーン…と期待する方も多いのではないでしょうか。
この作品でも存分に楽しむことができます!
前半のパワンとシャヒーダーの出会いのシーンはそんなミュージカルシーンから始まります。
赤色・黄色・橙色のビビットカラーが目を引く鮮やかな祭りの様子はまさに圧巻です。
このシーンは男性を中心に描かれているので、女性が作り出す華やかさとはまた違った迫力が感じられて個人的にはとても好きです。

あとは、パワンたちは宗教上鶏肉料理を食べませんが、イスラム教徒であるシャヒーダーのために鶏肉料理屋さんに連れていき、チキンをモチーフにした歌で元気づけるシーンがあります。
普段は隣の家が鶏肉料理を調理しているだけでもモヤモヤしてしまうくらいなのに、それよりも宗教を超えてシャヒーダーを元気づけるためにチキンの歌を歌ったことは、パワンたちの意識に変化が出た大切なシーンだと感じたので、ここもオススメです。

3.感想(ネタバレあり)

現実はそんなに甘くないと分かっていても

インドとパキスタンの関係は我々が思っているよりずっと深刻でしょうし、国民レベルでもお互いに嫌悪感を抱いている人々はまだまだいるかもしれないですし、映画のように2人の物語は完結しないでしょう。
国境国境警備隊に見つかった時点で射殺されるかもしれないし、バスで移動中パキスタン国民に嫌がらせを受けるかもしれないし、パキスタンに入国後警察に捕まりスパイと疑われた時点でインドに帰国することができないかもしれません。

現実はそんなに甘くない…そう分かっていても私はこの映画を否定することはできないし、むしろ「こんな優しい映画があったっていいじゃない!」「理想を語ったっていいじゃない!」と色んな方にこの映画を知ってもらいたいと強く感じました。
きっと映画を制作することさえリスクがあったかもしれません。
それでも、正直者でお人好しのパワンが宗教の違いを超えて育んだパキスタン人との交流に、今後の「願い」を込めたのだと感じました。

そんな「願い」が込められたパキスタン側の代表は、記者のチャント・ナワーブでした。
最初は、パワンをインド人のスパイだと思い取材をしようと思いましたが、取材を続けていくうちに勘違いに気付きました。
パワンの「シャヒーダーを家族の元に送り届ける」という優しくて強い決意に感銘を受けて、共に旅をすることを決意します。
その後もたくさんのパキスタン人と交流をして、優しさが優しさを次々に生んでいく過程が愛おしくて、こんな現象が永遠に続けばいいのに…と世界平和に思いを馳せてしまいました。

最後のシーンはずっと号泣

物語の集大成と言える最後のシーン、私はずっと号泣してしまいました。
チャント・ナワーブの動画配信のおかげで、国境検問所にはパワンのインド帰国を訴えるため多くのインド人・パキスタン人が集まりました。
それまでスパイ容疑で拷問されていたパワンはもうボロボロの姿でしたが、国境ゲートに向かう彼を大勢の人たちが称えるシーンは圧巻です。
「パキスタン人の女の子を家族の元に送り届ける」というパワンの真っ直ぐな行動が、歴史的背景、宗教の違いを超えたことが可視化された瞬間でした。
そして、極めつけに、それまで声を出せなかったシャヒーダーが国境検問所に来て「おじさん」「ラーマ万歳」と繰り返しパワンに叫び続けます。
(´;ω;`)
ええ、ええ、そうなるでしょうとも。分かっていたけどそれでも泣ける…シャヒーダーよ…もう何も言えません、とにかく観てほしいです。

4.まとめ

この映画の鑑賞中は、ほんわかと心がほぐれて、とことん優しい気持ちになれちゃいます。
はぁ…優しさの連鎖は見ていて気持ちがいいですね。
現在は世界中が苦しい状況ですが、こんな風に人間同士で助け合おう、理解し合おうという気持ちは忘れないようにしたいと感じました。

たまには王道ストーリーに流されて、理想を語り合うのもいいですよね!
この映画の「願い」が、いつかインドとパキスタンの両国に届くといいなと切に願います。