「インサイド・ヘッド」感想|自分が嫌いになりそうなときに振り返りたい映画

「インサイド・ヘッド」感想|自分が嫌いになりそうなときに振り返りたい映画

映画を観る時に「求めるもの」って人それぞれあると思います。
想像を超えた衝撃を味わいたい、トキメキを感じたい、異世界に潜り込みたい…などなど。
皆さんは映画に何を求めていますか。
私には、様々な「求めるもの」の1つに「自分を安定させる」というのがあります。
自分の大切なものを思い出させてくれたり、落ち込んだ自分を励ましてくれたり、ぐいっと心の健康バロメーターを戻してくれるような、そんなイメージです。
今回紹介するピクサーのアニメーション映画「インサイド・ヘッド」はまさにそんな映画で、自分が嫌いになりそうなときに観返すと、最後には「こんな自分でも大切にしたいな」というあたたかい感情が残るのです。
最近心の健康バロメーターが低くなってきているなと感じている方に是非観てほしい大好きな一本です。


1.あらすじ
2.感想(ネタバレなし)
・感情たちの紹介
・抽象的な世界の具現化
・自分を大切にしたいと思えるようになる
・ボーナス・コンテンツも観てほしい
3.感想(ネタバレあり)
・ヨロコビとカナシミ
・ビンボンと忘れられていく記憶
・喜びだけの人生は理想的?
4.まとめ


1.あらすじ

・2015年公開
・監督:ピート・ドクター、ロニー・デル・カルメン

アメリカのミネソタ州にライリー・アンダーセンという女の子が誕生した。
同時に彼女の頭の中に、ヨロコビ、カナシミという感情が生まれた。
そして成長するにつれて、イカリ、ムカムカ、ビビリという感情も生まれ、5つの感情たちはそれぞれの役割を担ってライリーが幸せに暮らせるように日々奮闘している。
5つの感情たちがいる「司令部」には、毎日それぞれの感情の色(ヨロコビ:黄色、カナシミ:青、イカリ:赤、ムカムカ:緑、ビビリ:紫)がついたたくさんの思い出ボールが作られる。
それらは1日の最後に長期貯蔵庫に運ばれ、その中でも特に大切な思い出はコアメモリーとして保存されている。

11歳になったライリーが急遽親の仕事の関係でミネソタ州からサンフランシスコに引っ越すことになった。
生まれ育った町を離れる不安や新しい土地でのトラブル続きで、感情たちもパニックになるがヨロコビは少しでもライリーが明るい気持ちになれるよう知恵を絞る。

そんな不安の中転校初日を迎えたライリーがクラスメイトの前で自己紹介をすることになるが、なぜか途中で泣き始めてしまう。
気付くとカナシミが思い出ボールを触ってヨロコビの記憶をカナシミに変え、更には司令台に立ち自己紹介を悲しいコアメモリーとして製造してしまった。
ヨロコビは悲しいコアメモリーが増えるのを阻止しようとするがカナシミは強く反対する。
2人が揉み合っているうちに、コアメモリーと一緒にヨロコビとカナシミが長期貯蔵庫に繋がっているチューブに吸い込まれて、司令部から遠く離れた長期貯蔵庫に飛ばされてしまった。

頭の司令部からヨロコビとカナシミを失ったライリーは、次第に元の明るい性格ではなくなり心がふさぎ込むようになる。
ヨロコビとカナシミは無事に司令部に戻りライリーを救うことができるのか。

2.感想(ネタバレなし)

92点。
ライリーの心の成長を頭の内外両方から丁寧に描いているあたたかい作品です。
頭の中の設定もワクワクするようなものばかりです。

感情たちの紹介

作品に出てきたライリーの頭の中に存在する「感情たち」を紹介します。

●ヨロコビ(Joy)
感情たちの中でも中心的存在であり、作品の主人公の一人。
常にライリーが楽しく過ごせるように考え、感情たちの中のムードメーカー。
他の感情より喜びが大事と思っていて特に「悲しみ」の感情を重要に思っていないため、カナシミ(Sadness)をあまり良く思っていない。

●カナシミ(Sadness)
作品のもう一人の主人公。
「悲しみ」の感情を司る存在で常にネガティブ思考。
カナシミが関わると影響力が強くライリーが悲しくなってしまうから、できるだけ迷惑かけないように過ごしている。

●イカリ(Anger)
常に怒りっぽく、怒りが爆発すると頭から火が出る。
作品では怒りの感情から、ライリーの家出を計画することになる。

●ムカムカ(Disgust)
心や身体にとって嫌なものを回避できるように行動している。
とてもおしゃれで、感情たちの中ではお姉さん的存在でもある。

●ビビリ(Fear)
常に恐ろしいことを予想して回避できるように行動している。
そうすることでライリーが大きな怪我などをしないように安全管理をしている。
予想できない事態になるとパニック状態になってしまう。

それぞれ役割は違いますが、共通の目的は「ライリーを幸せにすること」。
ライリーの楽しい思い出を観返してみんなでほっこりしているシーンなんかを観ると、みんなライリーが大好きなんだということが伝わってきますね。

この作品では「感情たち」を擬人化することによって目には見えない感情の働きに想いを寄せやすくなっています。
そういう意味では日本でヒットした漫画・アニメ「はたらく細胞」シリーズと似た性質を持っているんじゃないかと思っています。
このシリーズの「はたらく細胞BLACK」では不健康な身体というブラック環境の中で働く細胞が描かれているのですが、あまりに過酷すぎて「自分の身体は大切にしないと…」と胸に刺さるのです(笑)

人間は具現化することによって初めて存在を認識して理解することも多いのではないでしょうか。

「感情たち」の見た目はクリエイターたちが数えきれない試行錯誤を重ねた結果、いまの姿になったそうです。
最初のスケッチたちを見ると全然違う姿の子もいます。
どんな洋服が、どんな髪型が、どんな体型が、どんな動きが、1番性格を伝えやすいか…出しうる限りのアイディアを絞り出していて、その過程は本当に常人では考えられないレベルです。
何かを生み出すって本当に過酷だけど尊いな…と頭が上がらない思いです。

抽象的な世界の具現化

5つの感情たちが存在しているのはライリーの頭の中です。
つまりは現実に私たちには見えない世界であり、正解がない世界。
そんな抽象的な世界をアニメーションで具現化するのは本当に大変だと思います。
感情の司令部、コアメモリー、長期貯蔵庫、夢の製作スタジオ、潜在意識の部屋、記憶のゴミ捨て場、家族の島、友情の島、ホッケーの島、おふざけの島、正直の島などの設定はどこかファンタジー要素はあるのにきちんと科学的な根拠も踏まえたものも多くお見事の一言です。
この作品を作る過程で精神科医など感情のスペシャリストに専門的なことを学び熟考した成果がきちんと形になっていました。

「思い出ボール」という設定もどこかしっくり来ました。
たくさんの思い出ボールが流れるようにどんどん後ろに運ばれ、気付かないうちに多くのことを忘れてしまうのもそういうことかぁって…。
私はどれだけの思い出ボールを記憶のゴミ捨て場に捨ててきたのだろうと少し切なくなっちゃいました。

また、ライリーだけじゃなくてパパやママの頭の感情たちが描かれているのも面白いです。
同じ5つの感情なのに少しずつ性格が違い、問題に対する対処方法も違うのが興味深いですし、「自分の5つの感情たちはどんな感じかなぁ」と想像してワクワクしちゃいます。
私だったらビビリがメイン感情かしら…(笑)

自分を大切にしたいと思えるようになる

最初に書きましたが、この作品は自分が嫌いになりそうなとき、元気がないときに観たいと思っている映画です。
作品の中でもライリーがどんどん元気がなくなって頭の中の感情たちがパニックになっていくのですが、そんな中でも感情たちは「ライリーに幸せになってほしい」という目的を見失わず奮闘しています。
それを観たら「もしかしたら自分の中の感情たちも自分を幸せにしようと頑張っているのかも」と思えてきて、自分で自分をいじめずに大切にしなくちゃなぁという想いが生まれてくるのです。自分を1番大切にできるのは自分ですもんね。
そのためには感情に意識を向けることが大切で、これは子どもでも大人でも一生変わらないことなんだなぁと思いました。

ボーナス・コンテンツも観てほしい

上でキャラクターたちが出来上がるまでのことや、ストーリーが出来上がる過程のことを少し述べましたが、これらはBlu-rayに入っているボーナス・コンテンツにて紹介されています。
ボーナス・コンテンツは主にこんな感じです。

【Disc1】(本編が入っているディスク)
・南の島のラブソング(同時上映されたショートムービー)
・ライリーの初デート?
・ピクサーへの道:『インサイド・ヘッド』の女性キャスト&スタッフ
・感情たちをキャラクターに
・音声解説
【Disc2】(ボーナス・ディスク)
・製作の舞台裏
ストーリーができるまで/頭の中の世界を描く/パパの仕事場に潜入/<心の中の音>を作る/アニメーション編集の仕事/ライリーの気分と感情たち/info
・未公開シーン
イントロダクション/ライリーとヨロコビ/つまらない日々/懐かしい空想の友達/近道の向こう
・劇場予告編

このボーナス・コンテンツで、キャラクター・ストーリー・映像が完成するまで、とことん勉強・研究・試行錯誤するクリエイターの姿を見ることができて心を打たれます。
「ヒックとドラゴン」のときにも思ったけど、大人が本気になっている姿はかっこいいし、うきうきしますね。
(「ヒックとドラゴン」の感想レビューはこちらから)

3.感想(ネタバレあり)

ヨロコビとカナシミ

この作品はヨロコビとカナシミを中心に描かれています。
当初、ヨロコビはライリーを幸せにするためにとにかくヨロコビの思い出ボールをたくさん作ることに集中していました。
ヨロコビの中で「喜び=正義・正解」と強く信じていたのです。
そのため、ヨロコビはカナシミの存在が理解できず、ライリーが成長する過程でカナシミをコントロールできなくなってきたことにストレスを感じていました。
前半はヨロコビがカナシミに強く当たっている場面も多く、胸を痛めた方もいるんじゃないでしょうか。
(ヨロコビとしては、ライリーのためであり全く悪気がないから怖いですよね)

現実世界でも同じようなことがあるなぁとふと感じました。
私も明るいだけの人は少し苦手で、明るさは時に人を傷つける時もあります。
とても落ち込んでいる人に「そんなの気にしたって仕方ないよ」「泣かないでよ、とにかく元気出して」と根拠のない励ましを言ったところであまり心に響かないのです。
こんな時は「辛かったね」「大変だったね」と悲しみに対して共感してもらったほうが安心する場合も多いと思います。

ヨロコビは旅をしていく中でそれまで強く信じていた「喜び=正義・正解」について考え直すことになります。
思い出にはシンプルな喜びだけではなく悲しみも含めた色んな感情が混ざったものが多くあり、大人になっていく上でとても大切なことだと気付いていきます。
悲しみがあるから喜びが生まれることもあって、2つの感情は紙一重なんですよね。
このもがいて新しい感情が芽生えて成長するところを、頭の外側と内側の両方から見られるというのが不思議な体験で非常に面白いです。

ビンボンと忘れられていく記憶

この作品でのグッとくるポイントの1つのビンボン
ビンボンはライリーが小さい時に生み出した空想の友達です。
ピンク色のゾウのような見た目ですが、綿菓子のお腹、ネコのしっぽ、イルカの鳴き声と色んな要素がごちゃ混ぜです。
ビンボンは「小さい時はよく一緒に遊んだのに最近は思い出してくれない…」と長期貯蔵庫を歩いていたところ、ヨロコビとカナシミと出会い2人を助けることになります。
ヨロコビは司令部に戻ったらビンボンのことを思い出させてあげると約束しましたが、それは叶うことはありませんでした。

深い谷底にある記憶のゴミ捨て場に落ちてしまったビンボンとヨロコビ。
時間が経つにつれて存在が消えていくので、2人は急いで先に捨てられていたビンボンのロケットに乗って上まで脱出することを試みます。
動力は歌です。「たのしい友達♪ビンボン♪ビンボン♪」
何度も歌ってみましたが、あと少しというところで落ちてしまいます。
ビンボンの左手も薄くなってきました。
そこで、ビンボンはヨロコビに「さあ、今度はうまくいきそうだ」と手を差し伸べます。
「たのしい友達♪ビンボン♪ビンボン♪」「もっと大きい声で!」
ヨロコビが声を大きくして歌うと、ビンボンは途中で自らロケットから落ちていってしまいます。
無事に脱出できてヨロコビは嬉しくて振り返りますがビンボンの姿がありません。
記憶のゴミ捨て場を見ると、ビンボンは自分のことのように喜んでいました。
「ライリーを助けて。僕の代わりにあの子を月に連れていって。」という言葉を残して、ビンボンは消えていってしまいました。

ここ何度観ても号泣ですよね…あんなにライリーと遊ぶことを楽しみにしていたのに。
でも、ライリーが幸せになるために、ライリーが成長するために、ビンボンが決意したことなんだと思います。

全部のことをずっと覚えていたいけどそれは難しくて、大人になるには捨てていかなければいけないものも多いのだと気付かされます。

喜びだけの人生は理想的?

喜びだけの人生と聞くと、苦しいことがないんだから何だかいいじゃんって思っちゃいますよね。
でも、これまでの人生の印象深い出来事を思い返すと、不思議とシンプルな喜びだけの出来事はあんまり思い出せなかったりします。これは自分でも意外でした。
「大変だったけど成功して良かったなぁ」「あの悔しさのおかげで頑張れたなぁ」と、作品の中で描かれていたように、ヨロコビとカナシミは隣り合わせだったんだと気付きました。

幸せな人生を送りたい。人間にとって永遠のテーマです。
そんな思いがあるからこそ、何か良くないことが起きると他人と比較して人生に対して悲観してしまう人も多いのではないでしょうか。
でも、作品では他人との比較は一切描かれておらず、とことん「ライリーを幸せにする」ことにフォーカスしていました。
私たちも他人との比較ではなく、「自分がどうしたら幸せを感じるか」というのを感情たちと日々丁寧に対話をして行動していけたらいいなと感じました。

4.まとめ

人間には、どこか身体や心に悪いものがあるとそれを調整しようとする作用が少なからずあります。
疲れたときには睡眠をとって回復するように眠気が襲ってきたり、どこか擦りむけたらかさぶたができたり、ウィルスが入ってきたら熱を出したり…
ただ現代人はそれに甘えて無茶をする人も多く、「積極的に自分をメンテナンスする意識」が不足しているように思えます。
「インサイド・ヘッド」は自分をもっと大切にしていいんだよと教えてくれる優しい映画だと思いますので、心が少し疲れちゃったなという人は是非観てほしいなと思います。
よし、明日からまた頑張りましょう!