「長いお別れ」感想|自分の将来を考えずにはいられない 中野量太監督が描く家族の物語

「長いお別れ」感想|自分の将来を考えずにはいられない 中野量太監督が描く家族の物語

中野量太監督は前作「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016年)で日本アカデミー賞主要6部門を含む国内の映画賞計34部門を受賞しています。
私も当時とんでもない衝撃を受けた一人だったので、今回の最新作も期待感を募らせて映画館に向かいました。(前作のインパクトが強すぎて、もう2年以上前の作品ということに驚いています。)


目次
1.あらすじ
2.感想(ネタバレなし)
3.感想(ネタバレあり)
・母:曜子
・次女:芙美
・長女:麻里


1.あらすじ

・2019年公開
・監督:中野量太
・出演:蒼井優、竹内結子、松原智恵子、山﨑努 他

原作は中島京子の小説「長いお別れ」。
父の70歳のお誕生日会のため娘たちが久しぶりに帰省した。
すると、父の様子がいつもと違うことに娘たちは気付いた。
母から告げられたのは、父が認知症になったということだった。
日に日に記憶が遠ざかっていく父に戸惑いながらも、
家族みんなで支え合い父と向き合った、お別れまでの7年間を描いた作品。

2.感想(ネタバレなし)

85点。

普段あまり混んでいない近所の映画館ですが、公開して間もないからか多くの観客が居ました。
観客層はぱっと見た感じ50~60代がほとんどで、アラサーの自分は少し浮いていました(笑)
夫婦で来ている方々も多かったように思います。

率直に言えば、前作ほどの衝撃はありませんでしたが、期待通りの良作でした。
「認知症の発症から看取りまで」という重いテーマですが、
ユーモアたっぷりで作品全体が重くならないような工夫が散りばめられていました。
結果、切なくなるシーンはありますが、「暗い・辛い」ではなく終始お父さんへの「愛情」を丁寧に描いた作品でした。

ユーモアたっぷりに仕上がったのは、やはり演技力の高い俳優勢の力でしょう。
個人的には、母:東曜子役・松原智恵子さんの演技に魅了されました。
認知症によりかつての夫から変わっていくのに、変わらず夫を必要とし、
夫を愛おしいと感じ一緒に居たいと心から思っている姿は、
私にとって憧れの姿としてスクリーンに映りました。

きっとこの映画を観た方は、自分の家族と置き換えて考える方が多いかと思います。
私も、「家族が認知症になったら」と考えますが、
果たしてあの家族のように接することができるだろうかと少し不安になります。
映画では、家族みんながそれぞれ心のどこかで父を支えにして全てを受け入れて、
誰一人彼を邪魔扱いしない、否定しない、責めない、
そんな忍耐強い家族が描かれていました。

これは想像の範疇になってしまいますが、
認知症の家族の介護により精神的に追いつめられる日々を送る方々もいるのではないでしょうか。
そんな方々には、この映画を観て
「自分は認知症の家族にこんなにもしてあげられていない」と自分を責めるのではなく、
あくまで肩の力を抜いて向き合うきっかけ・ヒントとしてもらえればと思います。

3.感想(ネタバレあり)

この作品は、父:東昇平を中心に家族それぞれの視点で作品が動いていきます。

●母:曜子

上記にも書きましたが、夫が変わっていく中で、一緒に寄り添う覚悟を決め、
変わらない愛情を注ぐ姿が非常に魅力的でした。
「本当にお父さんが好き」というのがにじみ出ています。

自分が網膜剥離で入院・手術することになったときも、
第一に夫のことを優先に考え、入院を拒否します。
結果、次女:芙美に説得され入院しますが、途中で夫まで別病棟に入院することになります。
それを報告されて、怒りながらも「お父さんがこの下の階に居るのね!」と少し嬉しそうにしているのが可愛いです。
曜子は目の病状回復のためうつ伏せになる必要があるので、うつむき加減で夫の病室に会いに行き、「お父さん、来ちゃいました」とはにかむ姿もこれまた可愛いのです。

ただ、曜子は夫を心の支えにしていたところがあるので、夫が亡くなったあと介護の負担が減ってほっとするのではなく、逆に心にぽっかり穴が開いてしまうのではないかと心配になってしまいました。(映画ではその後はあまり描かれていないので分かりませんが)
私もどちらかと言うと夫大好き人間で曜子と重ねて観ていたこともあったので、
曜子には夫が亡くなったあとも元気でいてほしいなぁと思ってしまいました。

●次女:芙美

父の認知症について初めて聞いたとき、「まさかお父さんが…」と信じられず
とてもショックを受けていました。
芙美は父を尊敬していて大好きなのだというのが
このシーンだけでも伝わってきました。

父を尊敬する・信頼する気持ちは、作品を通して色んなシーンで描かれていました。
例えば、カレーのワゴン販売について父から「立派だ!」と言われるシーン。
芙美は夢も恋もなぜだかうまくいかないダメ人間だと自分で思っているけれども、
父の一言でなんだか救われた気持ちになります。
また、磐田道彦との別れを決意したあと、父とベランダで話すシーン。
「繋がらないって切ないね…」と泣き出す芙美の言葉に、「そう、くりまるな。
そういう時は、ゆーってするんだ」と会話はうまく成立していないはずなのに、
何だか分かり合っています。

芙美にとって、認知症になってもお父さんはお父さん。
変わらず父の言葉への信頼度が高いのだと感じました。

●長女:麻里

長女として、妻として、母として、しっかりうまくやっていきたいのに、
慣れない海外生活で少しずつ歯車が噛み合わなくなってくるのは見ていて苦しかったです。

麻里も、すでに話が噛み合わないはずの父と二人きりで話すことを望んだところを見ると、
変わらず父に対する信頼度が高いことが分かります。
「お父さんとお母さんみたいになりたかった」
…近くに理想の夫婦像があると、同じようになれなかったときに苦しむのですね。

でも、最後には夫とやり直しができそうな兆しが見えました。
麻里の夫は愛情がないのではなく感情よりも理論が先に来てしまうだけで、
じっくり話し合えばまだまだ大丈夫な夫婦だと思います。
お父さんとお母さんと同じではなく、今村夫婦としての正解の形を見つけてほしいと感じました。

まとめ

家族が認知症になるというのは、誰にでも起こりうることです。
そんなとき、思い悩むのではなく、自分がどんな風に家族と向き合っていきたいか、
この作品を通して前向きに考えるきっかけになったらいいなと思います。
中野量太監督の次回作にも期待しています。