「蜜蜂と遠雷」感想|2時間じゃ足りない!天才たちが奏でるピアノを堪能できる贅沢な映画

「蜜蜂と遠雷」感想|2時間じゃ足りない!天才たちが奏でるピアノを堪能できる贅沢な映画

大人気作家・恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」。
第156回直木三十五賞、第14回本屋大賞をW受賞されたことで有名になり、私も以前から気になっていたものの手に取る機会を逃していました。
そして今回実写映画化されることを知り、予告編を観たところ期待してもよさそう…ということで、公開前に原作を一気読みして、それから映画を鑑賞しました。


1.あらすじ
2.感想(ネタバレなし)
・原作を読んだあとに押し寄せる不安…
・音楽・キャスティングは良かった
・だからこそ、前編・後編にしてほしかった
3.感想(ネタバレあり)
・ラストの亜夜の演奏シーンは必見
・入れてほしかったシーン
4.まとめ


1.あらすじ

・2019年公開
・監督:石川慶
・出演:松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士 他

3年に1度開催される芳ヶ江国際ピアノコンクールには、毎回多くの優秀な若手ピアニストが世界へ羽ばたくための一歩として出場している。
栄伝亜夜はかつて天才少女と言われCDデビューまで果たしていたが、母の死をきっかけに舞台から遠ざかった。20歳になり自分の実力を試そうとコンクールに参加することにした。
高島明石は楽器店で働くサラリーマン。コンクールの応募規定ギリギリの28歳でコンクールに挑戦することを決意する。仕事と家庭と音楽を両立しながら自分にしか表現できない「生活者の音楽」を目指す。
マサル・カルロス・レヴィ・アナトールは、「ジュリアード王子」と言われる程の華やかなルックスを持ちながらもピアノの技術も完璧でありコンクールの優勝候補である。
そして、風間塵はこれまでのコンクール出場歴がないが世界の巨匠ユウジ・フォン=ホフマンの推薦状と共に彗星のごとくピアノ界に登場した。正式な音楽の勉強をしておらず、養蜂家である父親の仕事の関係で世界を転々として、自分のピアノを持っていない。

出場理由も歩んできた音楽人生も全く違う天才のコンテスタントたちが、どのようにコンクール予選を突破していき、一体誰が優勝を手にするのか。

2.感想(ネタバレなし)

84点。
誠意が感じられる作品だったからこそ、こうして欲しかった等の想いがたくさん出てきてしまった作品です。

原作を読んだあとに押し寄せる不安…

まずは原作である恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」を読みました。
…とにかく感動しました!
音のない小説の世界なのに、そこには確実にコンテスタントの一人ひとりの音色があり、色彩があり、哲学があり、感情があり、とても心揺さぶられました。
演奏シーンも何度泣いたことか…ボリュームのある小説ですが、そんなことは気にならないくらい一気に読んでしまいました。
私自身もド素人ながら高校時代から吹奏楽をしており、音楽に向き合いステージに立つという経験があるので、その緊張感が引っ張り出される感覚さえありました。
どうりで二つの賞を受賞する訳だ…!!と興奮しながら大きく納得しました。

しかし、ここで押し寄せる不安…
…これ2時間の映画にするのは無理じゃないか?
パリのオーディション、第1次予選~本選まで感動ポイントや見所がありすぎるし、そもそも演奏曲だけでも結構な時間が取られるのに…
そんな不安を抱えながら劇場で鑑賞しました。

音楽・キャスティングは良かった

鑑賞した結果、「2時間に収めるならば」これが正解のうちの1つなのかな、と思いながらもモヤモヤ…。
原作と違い栄伝亜夜を主人公に設定し、元天才少女と言われた彼女の復活劇として優しく描いていく感じでした。
悩みながらも予選を突破していき、塵、マサル、明石などとの交流を経て、演奏家としてやっていくと決意するまでの亜夜の揺らぎが繊細に描かれています。

気になる原作からの改変点がありつつも、2時間に収めるならばある程度思い切ったシーンや設定の削除が必要なことも理解できました。
そんな設定の中でも、音楽・キャスティングはとても良かったように感じました。

ただ、音楽は素晴らしかったものの、作品を通して演奏シーンには余計なものは極力付け加えておらず、その音楽に対してどう感じるかは観客任せにしている印象がありました。
そのため、クラシック音楽に馴染みがない人からすると少し置いてけぼりになってしまうんじゃないかという懸念はあります。
その音楽がどういうものなのか、どういう立ち位置なのか、というところを俳優さんの表情だけでなく、多少観客を誘導する形になったとしても、例えば審査委員の三枝子に心の中で解説させたら伝わりやすかったかもしれないと思いました。
(のだめカンタービレの千秋先輩のイメージですね)

そして、主要の4人のコンテスタントのキャスティングですが、原作のイメージからかけ離れておらず、それぞれの演奏シーンおよび音色も素晴らしかったです。

亜夜のぼーっとしているけど溢れ出る天才の雰囲気、明石の優しさと強い信念を持つ姿、マサルの貴公子的な爽やかさがありながらも驕らず音楽に対して実直な姿、塵のどこか底知れないものを持っていそうな雰囲気…全てぴったりでした。
音色もそれぞれのキャラクターに合っているなぁという印象でした。
その点、作品作りにおいて誠意が感じられる映画でした。

だからこそ、前編・後編にしてほしかった

音楽もキャスティングも良い。
だからこそ、2時間という枠にとらわれず大胆なスケールで作ってほしかったというのが正直な気持ちです。
「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」「アベンジャーズ/エンドゲーム」のように約3時間×2作品(前編・後編)で描かれていたら、もっともっと素敵な作品になったんじゃないかと思います。
後で書きますが、「ここは外してほしくなかったー!」というシーンが結構あるのです。
それをこのキャスティングで観たかったなぁとついつい欲が出てしまいます。

3.感想(ネタバレあり)

ラストの亜夜の演奏シーンは必見

コンテスタントが音楽的な個性を見せたのは、それぞれのカデンツァを奏でる「春と修羅」の演奏シーン。「自由に、宇宙を感じて」をどう表現するか。
「なるほどなるほど、それぞれのカデンツァはこうなるのね」と文章から読み取っていた音楽が耳から入ってくるのはとても嬉しかったです。

しかし、やはり私としてはラストの亜夜のプロコフィエフ三番が1番感動しました。
原作では、マサルがプロコフィエフ三番、亜夜がプロコフィエフ二番を弾くことになっているのですが、映画では逆になっていました。
私は原作を読むとき曲をYouTubeで確認しながら読んでいたのですが、その時に「あれ、映画の予告に使われているのはマサルの曲なのかー」なんて疑問に思っていました。
しかし、映画で入れ替わって亜夜の曲になっていたので納得。
製作側の意図は分かりませんが、プロコフィエフ三番のほうがキャッチ―なフレーズが多く印象に残りやすいと感じたので、改変は成功だったんじゃないかなと思います。
松岡茉優さんの演奏シーンは非常に迫力もあり、色気もあり、決意さえも感じられて、これを映画のメインシーンに持ってきてくれてありがとう!て感じでした。
たまにピアノや管楽器の演奏シーンで明らかに音と動きが合っていない映画を観ると、それだけで一気に冷めてしまうのですが、この作品ではあまり感じられませんでした。
今回の作品のコンテスタントたちは、きっと私たちが想像している以上に練習されたのかなぁと感じました。

入れてほしかったシーン

前編・後編の大作として描いてほしかったと書きましたので、ここからは「このシーンは入れてほしかった!」という妄想を書いていきます(笑)

1)パリのオーディションでの風間塵の登場シーン
塵は今回のコンクールにおける大きな予想外のピースです。
そのため、塵がこれまでのクラシック界の常識から外れている「なんかすごい感」を示すシーンが必要なのかなと思います。
例えば、演奏シーンは芳ヶ江国際ピアノコンクールまで取っておくとしても、仕事着で手が汚れたまま会場に登場したシーンと演奏後の審査員の反応だけでも見せたら、コンクールが荒れることを予兆させてくれるのではないでしょうか。

2)亜夜の付き添い・浜崎奏
映画では一切描かれなかった浜崎奏は、亜夜が通うことになった音楽大学の学長の娘で、同じ大学でヴァイオリンを学んでいる先輩。
コンクールを通して亜夜の付き添いをしてくれて、亜夜の心の変化に優しく寄り添い、亜夜がベストな状態でステージに立てるようサポートしてくれました。
彼女は音楽を聴く耳はとても良いものの、プレイヤーとしては天才とまでは行きません。
その点、観客と同じサイドでコンクールを観る者として、私たちのナビゲーターとして映画の中で描いても良かったのかなと思います。
もし彼女が映画に登場していて演奏曲についての解説をしてくれていたら素敵だなぁなんて妄想しちゃいます。

3)ジェニファ・チャンの演奏シーン
第二次予選でマサルと亜夜がジェニファ・チャンの演奏を聴いたときに、亜夜は「ダイナミックなのに単調」「凄いパワーだけどアトラクションみたい」という感想を持ちました。
ポピュラリティはあるけど音楽家にとっては屈辱的な評価として描いていて、実際に第二次予選で落選してしまいました。
比較対象としてそんな演奏も映画の中で描かれていたら面白いし、ジェニファ・チャンが亜夜に「何であなたなのよ!」と八つ当たりするシーンも裏付けされるのかなと感じました。

4)明石の第1次予選演奏シーン
私が原作の中でどのシーンが好きかなぁて思い返したときに、真っ先に思い付いたのが明石でした。
彼の演奏シーンはどれも優しく美しい言葉で彩られ、何度も泣いてしまいました。
おそらく他の観客や審査員でもノーマークだったはずの明石が演奏した途端、観客は目が開かれる思いがして、彼の音色が観客の心を癒している様子は映像にしたら美しいながらも爽快感もあるのではないでしょうか。

5)明石が奨励賞と菱沼賞の受賞の連絡を受けたシーン
こちらも明石になってしまうのですが、やはりこのシーンは入れてほしかったのです。
原作でも泣いてしまいました。
残念ながら第2次予選で落選してしまった明石ですが、第3次予選が終わったあとに奨励賞(入賞は逃したが、印象に残る、将来性のあるコンテスタントに贈られる賞)と菱沼賞(「春と修羅」の作曲者・菱沼忠明先生が決めた「春と修羅」No.1に贈られる賞)を受賞したとの不意打ちの連絡が来ます。
彼の「春と修羅」および彼のピアノを認める人たちが一定数いて、彼の今回の努力が報われた瞬間です。
このシーン、絶対松坂桃李さんは素晴らしく演じてくれると思うんですよねぇ…。
いやぁ、観てみたかったです…!

何だか明石ひいきみたいになっちゃいましたが、他の3人のコンテスタントも全員魅力的で1番は決められません!(笑)

4.まとめ

色々と書いてしまいましたが、原作と映画で違った楽しみ方ができると思います。
まだ原作を読んでいない方は「映画→原作」のほうが楽しめるかもしれません。
先に原作を読んでしまうとないものねだりをしてしまうので、先に映画で雰囲気を楽しんで、あとから詳細な事情を原作で埋めるイメージですかね。

是非美しい音楽の世界をご堪能ください!